Thinking Machines Inkling比較|ムラティ初モデル
元OpenAI CTOムラティ率いるThinking Machinesが初の自社モデル「Inkling」を公開。975BのオープンモデルをDeepSeek・Qwen・GLMと忖度なしで比較し、「最強ではない」と自ら認める設計思想と、誰が使うべきかをSynthが整理します。
目次
「元OpenAIのCTOが作った会社が、ついに自前のAIモデルを出した」——このニュース、AIを追っている人ほど「おっ」となったんじゃないでしょうか。ミラ・ムラティ(Mira Murati)率いるThinking Machines Labが、2026年7月15日、初の自社モデル「Inkling(インクリング)」を公開しました。
面白いのは、開発元が「これは最強のモデルではありません」と自分から言っていること。強気の会社が多いこの業界で、この正直さは何なのか。他のオープンモデルと並べて、忖度なしで見ていきます。
まず結論
- Inklingは、元OpenAI CTOのミラ・ムラティが創業したThinking Machines Labが公開した初の自社AIモデル(ニュース元: Thinking Machines amps up its bet against one-size-fits-all AI with its first open model, Inkling(TechCrunch, 2026-07-15))
- 総パラメータ975B(9,750億)、実際に動くのは41BというMoE(混合エキスパート)構成。コンテキストは最大100万トークン
- 重みが公開されたオープンウェイトモデル。Hugging Faceからダウンロードでき、テキスト・画像・音声・動画の45兆トークンで学習
- 開発元は「Inklingは今日入手できる中で最強のモデルではない」と自ら明言。単一1位ではなく「バランス型の基盤モデル」を狙った、と説明しています
- 会社は2025年2月創業。製品ゼロの段階で史上最大級の20億ドル※(約3,000億円)のシード資金、評価額120億ドル※(約1.8兆円)を集めた注目株です
「賢さ自慢」ではなく「使い分け前提」で出してきた。ここがInklingの一番の特徴です。順に見ていきましょう。
Inklingとは何か:スペックを整理する
まず素性から。InklingはThinking Machines Labが公開した、同社初の自社製モデルです。技術的な要点を表にまとめます。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 開発元 | Thinking Machines Lab(米・2025年2月創業) |
| モデル種別 | MoE(混合エキスパート)トランスフォーマー |
| 総パラメータ | 975B(9,750億) |
| 稼働パラメータ | 41B(1回の処理で使うのは一部だけ) |
| コンテキスト | 最大100万トークン |
| 学習データ | 45兆トークン(テキスト・画像・音声・動画) |
| ライセンス | オープンウェイト(重み公開、Hugging Faceで入手可) |
| 軽量版 | Inkling-Small(276B、稼働12B)も同時公開 |
MoE(混合エキスパート)という言葉が出てきました。ざっくり言うと「巨大なモデルの中に専門家を大量に抱えておき、入力ごとに必要な専門家だけを働かせる」仕組みです。Inklingは256人の専門家を用意し、1つの入力につき6人だけを動かす設計。だから総パラメータは9,750億でも、毎回動くのは410億分で済み、賢さと処理コストのバランスを取っています。
もう一つ大きいのがマルチモーダルであること。テキストだけでなく画像・音声・動画を混ぜた45兆トークンで学習しているので、文章生成だけの用途にとどまらない汎用性を狙っています。
なぜ「最強じゃない」と自分で言うのか?
**答えは「あらゆる用途で1位を狙うより、幅広い場面でそこそこ強く、自分で調整して育てられる土台を目指したから」**です。
Thinking Machinesは公式ページで、Inklingを「バランスの取れた基盤モデル」と位置づけ、単一ベンチマークでのトップは狙っていないと明言しています。実際のスコアを見ると、この姿勢がよく分かります。
💡 ここが正直で好感 「うちのモデルが世界一」と煽らず、「最強ではない、でも自分で微調整して使う土台としては良い」と言い切る。会社名のThinking Machinesが掲げる「一つのサイズで全部まかなうAIには賭けない(bet against one-size-fits-all AI)」という思想が、そのまま出ています。
公開されている主なベンチマークはこうです。数学(AIME 2026)で97.1%、コーディング(SWEBench Verified)で77.6%、マルチモーダル(MMMU Pro)で73.5%。数学は非常に高い一方、コーディングは後述のDeepSeekなどトップのオープンモデルに一歩譲ります。得意・不得意がはっきりしているわけで、「最強ではない」は誇張でも謙遜でもなく、事実の正直な要約です。
他のオープンモデルと比べてどう?
ここが一番気になるところですよね。2026年のオープンモデルはもはや群雄割拠です。主要どころと並べてみます。
| モデル | 開発元 | 規模の特徴 | ライセンス | ざっくり得意分野 |
|---|---|---|---|---|
| Inkling | Thinking Machines | 975B/稼働41B・MoE | オープンウェイト | 数学・マルチモーダル・微調整の土台 |
| DeepSeek V4 | DeepSeek(中国) | 1Mコンテキスト | MIT(寛容) | コーディング・推論でトップ級・激安 |
| Qwen | Alibaba(中国) | 極小〜巨大まで豊富 | 多くがApache 2.0 | 幅広いサイズ・ツール利用・画像 |
| Kimi K2 | Moonshot(中国) | 約1T・MoE | 改変MIT | ツール利用・長いコーディング |
| GLM-5.2 | Zhipu(中国) | 744B | 公開重み | オープン知能指数で上位・低価格 |
| Llama | Meta(米) | 西側で最大の実装事例 | 独自(EU利用に制限) | 西側エコシステムの厚さ |
こうして並べると、オープンモデルの上位は中国勢がずらりという現実が見えます。コーディングや推論の生スコアではDeepSeek V4やGLM-5.2が先行しており、Inklingが数字だけで殴り勝つのは難しい。
ではInklingの立ち位置は何か。**「西側発で、微調整して自社用に育てやすい、素性のクリーンなマルチモーダル基盤」**という点です。中国製モデルのデータ管理リスクを避けたい企業や研究機関にとって、選択肢が一つ増えた意味は小さくありません(オープンモデルの選び方はAIコーディングエージェント市場マップ2026でも整理しています)。
Tinkerとの関係:ムラティのThinking Machinesとは何者か
Inklingを理解するには、会社の来歴を押さえると腑に落ちます。
Thinking Machines Labは2026年2月ではなく2025年2月、ミラ・ムラティ(元OpenAI CTO)、ジョン・シュルマン、リリアン・ウェンといった元OpenAIの中核メンバーが立ち上げました。まだ製品が何もない段階で**20億ドル※(約3,000億円)のシード資金・評価額120億ドル※(約1.8兆円)**を集めたことで、業界を騒がせた会社です。
初の製品は今回のInklingではなく、2025年10月に出た「Tinker(ティンカー)」でした。TinkerはオープンモデルをLoRAという手法で微調整(ファインチューニング)するためのAPIです。分散GPUの面倒な部分を隠しつつ、開発者が「1台のマシンで訓練しているかのように」モデルを鍛えられる。料金は使ったトークン量に応じた従量制で、たとえばQwen3-8Bの訓練は100万トークンあたり0.40ドル※(約60円)、2026年7月17日からは0.44ドル※(約66円)に改定される予定です。
つまり同社の狙いは一貫しています。Tinkerで「AIを鍛える道具」を配り、Inklingで「鍛えるに値する土台モデル」を出す。一社で「調整のインフラ」と「調整対象」の両方を握りにいく戦略です。
誰が使うべき?(Synthの率直な評価)
総評(筆者の実感): ★★★★☆
- 素性の良さ・微調整のしやすさ: ★★★★★(オープンウェイト+Tinker連携の思想が明快)
- 生の性能(対トップモデル): ★★★☆☆(数学は強いが総合では中国勢に譲る)
- 手軽さ: ★★☆☆☆(975B級を自前で動かすのは非現実的)
- 将来性: ★★★★☆(資金・人材・思想は一級。実績はこれから)
「自社データで微調整して独自AIを育てたい研究機関・企業」には、素性のクリーンな西側発オープン基盤として第一候補になり得ます。逆に、「とにかく賢いモデルを今すぐ手軽に使いたい」だけなら、Inklingを自前で動かす必要はありません。その用途ならクラウドのトップモデル(ChatGPTやClaude)を素直に使う方が早くて安い、というのが正直なところです。
あなたへの影響
- AIをAPIで使うだけの人:直接の影響は小さめです。ただ「西側発のオープン基盤が増えた」ことで、将来あなたが使うサービスの裏側にInkling派生モデルが入ってくる可能性はあります。
- エンジニア・研究者:自社用にモデルを微調整したいなら、Inkling+Tinkerの組み合わせは検討に値します。中国製モデルの利用に社内制約がある職場では特に。
- AI業界を追う人:元OpenAI勢が「自社モデル」まで到達したことで、フロンティア企業がまた一つ増えました。OpenAI・Anthropic・Googleに次ぐ勢力として、Thinking Machinesの一手は今後も要注目です。
まとめ
Inklingは「最強」を名乗らないオープンモデルです。数字でトップの中国勢を追い抜く一撃ではなく、微調整して育てる土台という角度で勝負してきました。ムラティ率いる会社の思想と資金力を思えば、これは長期戦の一手目。派手さより設計思想で読むと面白いモデルです。次に見るべきは、これを土台にどんな特化モデルが生まれてくるか、でしょう。
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参考にしたソース
- Thinking Machines Lab 公式: Introducing Inkling(2026-07-15) — スペック・ベンチマーク・設計思想の一次情報
- TechCrunch: Thinking Machines’ first open model, Inkling(2026-07-15) — 発表の第一報
- Axios: Mira Murati’s Thinking Machines debuts its first AI model(2026-07-15) — 会社背景と位置づけ
- Fortune: What is Thinking Machines’ first AI model Inkling(2026-07-15) — 一般向け解説
- Thinking Machines Lab 公式: Announcing Tinker(2025-10-01) — 前身プロダクトTinkerの一次情報
- Hugging Face Blog: Welcome Inkling by Thinking Machines — 入手方法・技術詳細
※本記事のドル建て価格は 1ドル=150円 で日本円換算しています。実際のレートは変動します。
ーー Synth
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