シフト作成が「月3日→ボタン1つ」に AIで現場を変えた「HITL設計」

by Synth
シフト作成が「月3日→ボタン1つ」に AIで現場を変えた「HITL設計」

地方ホテルの支配人が月3〜5日かけていたシフト作成業務を、AIエージェント+HITL設計で「ボタン1つ」に圧縮した事例を解説。誰でも応用できる業務自動化の本質を、現場目線で読み解きます。

毎月、月末になると気が重くなる業務。みなさんにも、ありませんか?

ある地方創生ホテルの支配人にとって、それは「シフト作成」でした。スタッフ全員の希望休、有給、急な体調不良、繁忙期の人員配置、労働基準法のチェック──これらを930マスのスプレッドシートに手入力で組み立てていく作業。毎月3〜5日、まるごと潰れていたそうです。

それが、AIエージェントClaude Codeを組み合わせた「HITL(Human-in-the-Loop)設計」によって、ボタン1つで数時間にまで圧縮された——というZENNの記事が、わたしの目を引きました。

「またAI万能論の話か」と思いきや、そうではありません。むしろこの記事の本質は、「AIに任せる範囲と、人間が握る判断を冷静に切り分けたこと」にあります。今回はこの事例から、わたしたちの仕事に応用できる「業務自動化の作法」を読み解いていきます。

まず結論

  • ホテル支配人の月3〜5日かけていたシフト作成が、AIエージェント+HITL設計数時間に短縮
  • 鍵は「全部AIに任せない」設計。ハード制約はAIが処理、ソフト制約は人間が判断
  • 開発期間はわずか5日Claude Code+Google Apps Script+既存Google Sheetsで構築
  • 月間工数削減70〜80%、新ツール導入ゼロ、現場の心理的負担も激減
  • 個人や中小企業がAIを業務に組み込むときの「正解パターン」がここにある

ニュース元: シフト作成、月3日かかっていた作業を「ボタン1つ」にした話(Zenn / shinvalue)


1. 「月3日のシフト作成」は何が大変なのか

ホテルや飲食店、コールセンター、コンビニ──シフト制の現場で働いた経験がある方なら、シフト作成の地獄っぷりはピンとくるはずです。

シフト作成が大変な理由を分解すると、こうなります。

工程何が大変か
希望休の収集スタッフ全員から紙やLINEで集めるのが手間
表への転記930マス(30人×31日)に手入力する地獄
制約チェック労働基準法、連勤上限、夜勤明けの休みなど多数
公平性調整「先月この人ばっかり休日出勤だった」のバランス取り
急な変更対応完成直前に「すみません、その日休みたいです」

特にやっかいなのが、ハード制約(守らないと違法)とソフト制約(守った方がいい)が混在していること。

  • ハード制約: 1週間40時間まで、6時間以上働いたら休憩が必要、夜勤明け休み必須など
  • ソフト制約: 公平性、本人の希望、配属バランス、スキル組み合わせなど

これらを支配人の脳内だけで毎月組み立てるのは、もはや「神業」の領域です。月3〜5日かかるのは、サボってるからではなく、それくらい複雑な意思決定だからなんですよね。


2. 「全自動化」ではなく「HITL設計」を選んだ理由

ここからが本記事の本題、そして一番面白いポイントです。

開発者は、シフト作成を「全自動化」しようとしませんでした。代わりに採用したのが、**HITL(Human-in-the-Loop)**という設計思想です。

ルールで決められることはシステムが自動処理し、人間にしかできない判断だけを人間に委ねる

簡単に言うと、こういう棲み分けです。

制約タイプ処理方法
ハード制約労働基準法違反自動ブロック(システムが弾く)
ソフト制約公平性・希望反映警告表示(人間が最終判断)

なぜ「全自動」にしなかったのか。理由はシンプルで、100%の自動化を作ろうとすると開発コストが跳ね上がるからです。

正直、AIに「完璧なシフト」を作らせようとすると、こんな闇が広がります。

全自動化を目指した場合の罠

  • 例外パターンが膨大になる(祝日、年末年始、繁忙期、スタッフ事情)
  • ソフト制約の優先度の重み付けが、業界・現場ごとに異なる
  • AIの提案が現場感覚と微妙にズレた時、修正コストが膨大
  • 「AIが決めた」という最終責任の所在が曖昧になる

支配人にとって、シフト作成は「責任を持って組む」業務です。最終的に判断するのが自分でないと、現場のリーダーシップが取れない。AIに丸投げするほど、かえって組織が機能しなくなります。

そこで、HITL設計の登場です。

HITL設計のメリット

  • 開発が現実的なコストで終わる(5日で完成)
  • 法律違反は機械的にブロック → ヒューマンエラー削減
  • 公平性は人間が判断 → 現場感覚と整合
  • 「最終的に決めたのは支配人」と明確 → 責任の所在がクリア

人間にしかできない仕事を残す」という設計が、この事例の知恵です。


3. 技術的な作り:意外なほど”普通”

AIエージェント、というと最先端ツールを駆使したシステムを想像するかもしれません。 でも、この事例で使われた技術スタックは、めちゃくちゃ”普通”です。

要素採用ツール
開発支援Claude Code(AIペアプログラミング)
データ基盤Google Sheets(15シート)
自動化処理Google Apps Script(GAS)
希望収集Googleフォーム
補助スクリプトPython

ポイントは、新しいSaaSを買っていないことです。中小企業がGoogle Workspaceを使っているなら、追加コストゼロで実装可能な構成になっています。

「AI導入には数百万円かかる」というイメージを持っている方も多いと思いますが、それは大規模ベンダーに発注した場合の話。個別の業務に絞れば、ChatGPTやClaude Codeのような開発支援AIを使って、個人〜小規模チームでも十分作れる時代になりました。


4. 「定義書ファースト開発」という実用的な手法

開発期間はわずか5日だったそうです。これは衝撃的な数字です。 普通、シフト管理システムの開発は数か月〜半年が当たり前。なぜここまで短期で完成したのか。

鍵となったのが、**「定義書ファースト開発」**というアプローチです。

これは、

  1. 仕様を先に文章で定義する
  2. その定義書をAI(Claude Code)に渡す
  3. AIがコードを生成する
  4. 動かして検証 → 定義書を更新 → コードも更新

というサイクルです。定義書とコードを同時並行で育てるスタイルですね。

💡 個人的な所感 これ、地味だけど非常に重要な作法です。AIに「いい感じに作って」と丸投げすると、できるものはおよそ使い物になりません。何を作りたいか、どう動くべきかを文章で書ける人が、AI時代の最強の武器を持っている、ということです。

要件定義書を書ける人は、もうそれだけで、AI時代の「プログラマー」になれます。 これは初心者にとっても朗報で、コードを書けなくても、業務をきちんと言語化できれば、AIが翻訳してくれるということです。


5. 削減効果の正体:単なる時短じゃない

報告された削減効果を整理してみます。

項目BeforeAfter削減
シフト作成全体3〜5日/月数時間/月約95%
希望転記(930マス)手入力自動取込100%
制約チェック目視で確認リアルタイム自動100%
月間工数(推定)70〜80%削減

ここで重要なのは、「時間削減」だけが効果ではないということです。

見えない効果(重要)

  • 支配人の心理的負担が激減(「月末が憂鬱」が消える)
  • 法令違反のヒューマンエラーが減る
  • スタッフの希望反映率が上がる(公平性が見える化される)
  • 削減できた時間で、サービス改善や新規企画に手が回る

特に心理的負担の削減は、数字に表れにくいけれど絶大な効果です。シフト作成のような「気が重い業務」を月初に終えられると、メンタルの健康度がまったく変わります。これは経験者ならわかるはず。


6. AIの限界も書いておく:万能ではない

正直に書くと、この事例にも限界はあります。AIは万能ではない

⚠️ HITL設計でも残る課題

  • 制約条件のロジックが変わったら、定義書を書き直す必要がある
  • 「業界のローカルルール」「人間関係の機微」は依然としてAIが扱えない
  • 既存のExcelやスプレッドシート文化に慣れすぎたスタッフは抵抗感を持つ
  • システムが落ちた時のバックアップ手順を別途用意する必要がある
  • ソフト制約の重み付けは、人間の最終判断スキルに依存する

つまり、AIエージェントを導入しても**「シフト作成スキルが完全に不要になる」わけではない**んです。むしろ、ハード制約をAIに任せたぶん、ソフト制約(公平性、人間関係、現場の状況)に対する人間の判断力がより重要になります。

「AIが代行してくれる」ではなく、「AIに下準備を任せ、人間は本質的な判断に集中する」——これがAI時代の業務の形になっていくのだと思います。


7. これ、自分の業務にどう応用する?

ここが一番大事なセクションです。読者の方が、明日から自分の業務でどう活かすか。

応用ステップ1: 手作業ループを1つ選ぶ

毎月/毎週/毎日、「またこの作業か…」と思ってる業務はありませんか? たとえば:

  • 月次レポートの数字集計
  • メールの定型返信
  • スケジュール調整
  • 議事録の要約
  • 週報の作成

その中で、ハード制約とソフト制約に分解できそうな業務が候補です。

応用ステップ2: HITL設計で書き出す

選んだ業務を、こう分解してみてください。

[業務名]: ○○の作成

ハード制約(自動化したい):
- 形式: ○○の形で出力
- 必須項目: A, B, C
- 計算ルール: ○○の場合、○○の値

ソフト制約(人間が判断したい):
- 表現の調整
- 個別の事情考慮
- 最終承認

これだけで、AIに任せていい範囲と、人間が握るべき範囲が見えてきます。

応用ステップ3: ChatGPTかClaudeに定義書ベースで頼む

書き出した内容をそのまま、ChatGPTClaudeに投げます。

プロンプト例:
以下の業務を半自動化したいです。Google Apps Scriptで
スクリプトを作ってください。

業務: 月次レポート作成
ハード制約:
- 売上データから自動計算
- 前月比を必ず算出
- 形式はPDF
ソフト制約:
- コメントは人間が記入
- グラフのレイアウトは人間が最終調整

データソース: スプレッドシート(URL: ...)
出力先: Google Drive

最初の試行で完璧なものは出ません。でも、定義書を磨きながら3〜4回やり取りすれば、十分実用的なスクリプトになります。

★評価(筆者の実感): ★★★★★

  • 再現性: ★★★★★(個人〜中小企業でも実践可能)
  • コストインパクト: ★★★★★(追加SaaSゼロ)
  • 心理的効果: ★★★★★(「月末が怖い」が消える価値)
  • 学びの汎用性: ★★★★★(HITL設計はあらゆる業務に応用可能)

あなたへの影響

  • シフト管理に関わる方(管理職・店長・支配人) → 影響大。今すぐ自分の業務を洗い出して、HITL設計で書き出してみる価値あり
  • 業務改善・DX担当の方 → 影響大。ベンダーに発注する前に、Claude CodeやChatGPTで「自分で作る」が現実的な選択肢に
  • 個人事業主・副業をしている方 → 影響中。請求書作成、レポート作成、SNS投稿などにそのまま応用可能
  • エンジニア・プログラマーの方 → 影響中。「定義書ファースト開発」の作法は、AI時代のソフトウェア開発の基本動作になっていく
  • AIに使われそうで不安な方 → 朗報。業務を言語化できる人がAIを使う側になる。コーディングスキルより、業務理解の方がこれから価値が出る

まとめ

「月3日かかっていたシフト作成が、ボタン1つで数時間に」という派手な見出しの裏側には、「AIに何を任せ、人間は何を握るか」を冷静に切り分けたHITL設計という、地味だけど本質的な工夫がありました。

AI時代の業務改善は、「AIで全自動化!」というスローガンよりも、「わたしたちが何を判断し続けるか」を決めることから始まるんだと思います。

明日、月初の重い業務を1つでも思い浮かべたら、それが**あなたの「シフト作成」**かもしれません。

関連記事


ーー Synth

ヘッダー画像: Photo by RDNE Stock project on Pexels

S

Synth

explAInのライター。AIの今をやさしく、忖度なしで。